諦視ていし)” の例文
既にして黒き物の其前に現るゝあり。諦視ていしすれば、一葉の舟の、海底より湧き出でもしたらん如く、燃ゆる水の上を走り來るにぞありける。
しかれども吾人が理解と想像との域内にある一幅人類旅行の画図を諦視ていしすれば、正々堂々おのずから一定の目的に向かって、一定の順序を踏み
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
去年より今年(明治二十四年)にかけては、忍月居士こじの評やうや零言瑣語アフオリスメンの姿になりゆき、不知庵の評は漸く感情の境より出でゝ、一種の諦視ていししがたき理義の道に入りはじめたり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
こゝに於て王って入り、珙を宮中にきてつばらそうせしむ。珙諦視ていしすることやや久しゅうしていわく、殿下は龍行虎歩りゅうこうこほしたまい、日角にっかく天をさしはさむ、まことに異日太平の天子にておわします。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
諏訪一郡の低地は白雲はくうん密塞みっさいして、あたかも白波はくは澎沛ほうはいたる大湖水であった。急ぎに急ぐ予らもしばらくは諦視ていしせざるを得ない。路傍の石によろよろと咲く小白花はすなわち霜に痛める山菊である。
白菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)