言訣いいわけ)” の例文
買つた蜜柑だが盗んだと思はれはせぬとかと、冷いやりしないでもなくなる。竜胆などが混つてる籠だ。言訣いいわけは一寸立ちさうにもないなとをかしくもなる。
蜜柑山散策 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
爺さんは言訣いいわけのように、このへんは往来から見えるところに物を置くのは危険だということを話した。石田が長靴を脱ぐと、爺さんは長靴も一しょに持って先に立った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
私の小さな同伴者どうはんしゃたちは何もののしろうとせず、かえって私に向って何かその言訣いいわけでもしたいような、そしてそれを私に言い出したものかどうかと躊躇ためらっているような
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
絿ちぢらせた明色めいしょくの髪に金粉をけて、肩と腰とに言訣いいわけばかりの赤い着物を着た女を、客が一人宛傍ずつそばに引き寄せている。金井君は、「己は肺病だぞ、傍に来るとうつるぞ」と叫んでいる。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
……私は急に、私のそばにいる彼女の腕をとって、向うから苦手の人が来るらしいのでつかまると面倒めんどうくさいからと早口に言訣いいわけしながら、いま来たばかりの水車場の方へ引っ返していった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)