蚊遣火かやりび)” の例文
「どうして?」「わしのはこうじゃ」と語り出そうとする時、蚊遣火かやりびが消えて、暗きにひそめるがつと出でて頸筋くびすじにあたりをちくと刺す。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蚊をよける手段には蚊遣火かやりびは記録にも見えるが、蚊帳の今の形になって常民の家にも普及したのは、存外に近頃のことだったのである。
竜之助は縁端えんばなへ出て、久助がさきほどきつけてくれた蚊遣火かやりびの煙を見ながら、これも先刻、久助が持って来てくれた三輪の酒を、チビリチビリと飲んでいました。
蚊遣火かやりびの煙にとざす草のいおを人しも訪はば水鶏くいな聞かせむ
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
蚊遣火かやりびや道より低き軒の妻 百里
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
母ひとり子ひとり細い蚊遣火かやりび
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
蚊遣火かやりびや縁に腰かけ話し去る
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
含んでいるうちに珠玉たまの溶けてゆくような気持を喜んで、一杯、一杯と傾けている——蚊遣火かやりびけむり前栽せんざいから横になびき、縦に上るのを、じっと見ている様子は、なんのことはない
蚊遣火かやりびはいつのにやら消えた。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蚊遣火かやりびに夕顔白しだい/\は 同
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
蚊遣火かやりびのなびけるひまに客あるじ
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)