虚偽いつわり)” の例文
わたしは、初めに虚偽いつわりを申しました。ほんとうに罪深い女でございます。あれに悪い手本を見せたのは、このわたしでございます。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
まづおのれからその道にそむきて、君をほろぼし、国を奪へるものにしあれば、みな虚偽いつわりにて、まことはよき人にあらず、いとも/\しき人なりけり。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかり、彼らはわかっているのにこれを信じ受けず、あまつさえイエスは悪鬼によって働いているのだなどと言う! 言語道断の虚偽いつわりだ、不誠実だ。
それが、かりそめにも虚偽いつわりなどを申しては、その名に対しても実にずべきことだ。人は一代、名は末代だぞ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姉に同情したのは虚偽いつわりだったかもしれない。私一人で彼に会うことが出来るのだったから。だんだん別れる日までがせばめられてゆく。私は朝毎に彼に会った。
四年のあいだのこと (新字新仮名) / 久坂葉子(著)
「何しに虚偽いつわりを申しましょう? 私とてもしいて命を捨てとうはござりませぬ。その代りには、兄上、大石殿始め一党のことはどうぞ御内分にしてくださりませ」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
虚偽いつわりのない、全くの私の思っていたことで、もし傍近くにいたならば、チクチクと魂にこたえるような辛辣しんらつなことを言われるに違いないというようにも思ったりした。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
とかく世の中では真実まことのことはおおいかくされ、虚偽いつわりがもてはやされる——しかしながらくれぐれも、わしがそなたに申して置きたいのは、そなたのその美くしさ、その若かさをば大切にして
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「決して、虚偽いつわりでも幻覚でも御座いませんのですから」
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのほうは全く金子きんすられた覚えはないのか。虚偽いつわりを申すな。たとい虚偽をもって一時をのがるるとも、天知る、地知る、我知るで、いつがいつまで知れずにはおらんぞ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「金銀しからずといふは、例のからやうの虚偽いつわりにぞありける。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)