虎耳草ゆきのした)” の例文
釣荵つりしのぶは風流に似て俗であるが、東京の夏の景物として詩趣と画趣と涼味とを多分に併せ持っているのは、かの虎耳草ゆきのしたであることを記憶しなければならない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
庭石の蔭や井戸端や石垣の間などによく生えている虎耳草ゆきのしたの美しい葉と小さい白い花で、平次はそれを紙に挟んで懐中へ入れながら、四方あたりを見廻しましたが
例ふれば窓辺に稗蒔ひえまき、軒端へは釣忍、また鮑ツ貝に虎耳草ゆきのしたの花白きをかゝげては愛づるがごとくに。
山の手歳事記 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
わが家の石垣いしがきに生ふる虎耳草ゆきのしたその葉かげより蚊は出でにけり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
虎耳草ゆきのしたに似て、疑いもなく深山のものらしい花である。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
深い深い井戸、石を畳み上げて、こけ虎耳草ゆきのしたの一杯に付いた石垣の下、真っ黒な水の底の底に、そういえば何やら四角なものが沈んでいるようでもあります。
虎耳草ゆきのした秋海棠しうかいだう齒朶しだなど
樹木とその葉:11 夏の寂寥 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
深い/\井戸、石を疊み上げて、こけ虎耳草ゆきのしたの一杯に附いた石垣の下、眞つ黒な水の底の底に、さう言へば何やら四角なものが沈んでゐるやうでもあります。
繩の下に虎耳草ゆきのしたの花があつたので、場所は三日月の井戸と判つた。——神津家の雨戸は決して外から開けたのぢやない。拍手かしはでを打つた位であのさん輪鍵わかぎはビクともするものぢやない。
縄の下に虎耳草ゆきのしたの花があったので、場所は三日月の井戸と判った。——神津家の雨戸は決して外から開けたのじゃない。柏手を打ったくらいであの桟や輪鍵はビクともするものじゃない。
庭石の蔭や井戸端や石垣の間などによく生えてゐる虎耳草ゆきのしたの美しい葉と小さい白い花で、平次はそれを紙に挾んで懷中へ入れ乍ら、四方を見廻しましたが、其の邊には虎耳草など一つもありません。