薫香たきもの)” の例文
小袿こうちぎを下に重ねた細長のなつかしい薫香たきもののにおいのんだのを、この場のにわかの纏頭てんとうに尚侍は出したのであるが
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
きれいな直衣のうし薫香たきものの香のよくんだ衣服に重ねて、なおもそでをたきしめることを忘れずに整った身姿みなりのこの人が現われて来たころはもう日が暮れていた。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
抱き上げるとこの猫にはよい薫香たきものの香がんでいて、かわいい声で鳴くのにもなんとなく見た人に似た感じがするというのも多情多感というものであろう。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
怪しいほど放散するにおいに忍び歩きをするのも不自由なのをうるさがって、あまり薫香たきものなどは用いない。
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と催促したのを機会に、柔らかな直衣のうしの、えん薫香たきものの香をしませたものに着かえて院が出てお行きになるのを見ている女王の心は平静でありえまいと思われた。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
童女などは北側のへやの外の縁にまで出ているのである。火入れがたくさん出されてあって、薫香たきものをけむいほど女房たちがあおぎ散らしているそばへ院はお寄りになって
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それでもこの人の家にしまわれた薫香たきものが異なった高雅な香の添うものになり、庭の花の木もこの人のそでが触れるために、春雨の降る日の枝のしずくも身にしむ香を放つことになった。
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
新婚時代の新郎の衣服として宮のほうへおいでになる院のお召し物へ女房に命じて薫香たきものをたきしめさせながら、自身は物思いにとらわれている様子が非常に美しく感ぜられた。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
畳み目の消えた衣服をぎ捨てて、ことにきれいなのを幾つも重ね、薫香たきものそでくすべることもして、化粧もよくした良人が出かけて行く姿を、の明りで見ていると涙が流れてきた。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
奥の室から吹き通う薫香たきものの香に源氏の衣服から散る香も混じって宮のおいでになるあたりはにおいに満ちていた。予期した以上の高華こうげな趣の添った女性らしくまず宮はお思いになったのであった。
源氏物語:25 蛍 (新字新仮名) / 紫式部(著)
感じのよい早春の黄昏たそがれの空の下に梅の花は旧年に見た雪ほどたわわに咲いていた。ゆるやかな風の通り通うごとに御簾みすの中の薫香たきものの香も梅花のにおいを助けるように吹き迷ってうぐいすを誘うかと見えた。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
日の暮れ方に源氏は明石あかし住居すまいへ行った。居間に近い渡殿わたどのの戸をあけた時から、もう御簾みすの中の薫香たきもののにおいが立ち迷っていて、気高けだかえんな世界へ踏み入る気がした。居間に明石の姿は見えなかった。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)