しめや)” の例文
しめやかな話が、しばらく続いていた。動物園で猛獣のうなる声などが、時々聞えて、雨の小歇こやんだ外は静かに更けていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
點燈後程經た頃であるからして、船も人も周圍の自然も極めてしめやかである。その間に通ふ靜かな物音を聞いてゐると、かの少年時の薄玻璃うすはりの如くあえかなる情操の再び歸り來るのではないかと疑ふ。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
一日降つたしめやかな雨が、夕方近くなつてあがつた。ときたならしい子供等が家々から出て来て、馬糞交りの泥濘ぬかるみを、素足でね返して、学校で習つた唱歌やら流行歌はやりうたやらを歌ひ乍ら、他愛もなく騒いでゐる。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
じめじめした細い横町、なまけものの友達と一緒に、厭な学校の課業のあいだを寝転ねころんでいた公園のしめやかな森蔭の芝生——日に日に育って行く正一を見るにつけて
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
また降り出したと見えて、しめやかな雨の音が枕に伝はつて来た。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)