のぞ)” の例文
水を切って、車輪のように大きい真紅や雪白の蓮華が、矗々ちく/\と生えて居る。水にのぞんでは、金銀瑠璃玻璃の楼閣が、蜿蜒として連って居る。
極楽 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
けた少時しばし竹藪たけやぶとほしてしめつたつちけて、それから井戸ゐどかこんだ井桁ゐげたのぞんで陰氣いんきしげつた山梔子くちなしはな際立はきだつてしろくした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
此春蘭軒が柴山謙斎の家の詩会にのぞんで作つた詩がある。謙斎は其人をつまびらかにしない。蘭軒の交る所に前に柴担人さいたんじんがある。人物の同異未詳である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ことに晩年にのぞみて、教法の形式、制限を脱却することますます著るしく、全人類にわたれる博愛同情の精神いよいよ盛なりしかど、一生の確信は終始ごうかはること無かりき。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
常庵は医官となつた後も、筵席にのぞめば必ず踊つた。「綱は上意」が其おはこであつた。維新の後、常庵は狂言作者となつて竹柴寿作と称し、五代目坂東彦三郎に随従してゐた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
中秋には余語天錫よごてんせきの家に詩会があつて、蘭軒はこれにのぞんだ。其夜は月蝕があつたので、「幸将丹竈君家術、理取嫦娥病裏顔」の句がある。菅茶山にも亦「中秋有食」の詩があつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)