莫連者ばくれんもの)” の例文
「遠方をわざわざ御苦労さま。わたしはまだあなたにはだを御覧に入れるほどの莫連者ばくれんものにはなっていませんから……」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
三十六人の情夫を持ったというなにがしの俳優の妻も、許した限りの男の定紋をほりものにして肌に刻んだ莫連者ばくれんもの——
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あははは」お宮は仕方なく心持ち両頬をあかく光らして照れたように笑った。が、その、ちょっとした笑い方が何ともいえない莫連者ばくれんものらしい悪性あくしょうな感じがした。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
莫連者ばくれんものの大姐御でも、恋となれば生娘きむすめも同然。まるで人が変わったように、かいがいしく左膳の世話をする。何かぽっと、一人で顔をあからめることもあるのでした。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
が、けんぺき茶屋の女中上がりの、莫連者ばくれんもののお弓は、市九郎が少しでも沈んだ様子を見せると
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
戸籍面こせきめんの父はおろかで、母は莫連者ばくれんもの、実父は父の義弟ぎていで実は此村の櫟林くぬぎばやしひろわれた捨子すてごである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お春というのも芸者あがりの莫連者ばくれんものですから、自分も男の仲間にはいって一緒に勝負をしていたそうです。親父のよい辰も半身不随のくせに、やはり勝負をしていたのでございます。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お夏は既に処女にあらずして莫連者ばくれんもの蓮葉者はすはもののいたづらあがりの語気を吐けり。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
人が話をすれば、「うんうん、ふん、ふん」とはならして聞いた。彼女の義兄も村に人望ある方ではなかったが、彼女も村では正札附の莫連者ばくれんもので、堅い婦人達は相手にしなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
つまり、煮ても焼いても食えない莫連者ばくれんものであるか、そうでなければ、その道のいわゆる玄人くろうとというやつが盛りつぶされて、茶屋小屋の帰りに、こんな醜態を演じ出したと見るよりほかはないのです。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
恋は莫連者ばくれんものをも少女にする。頬に紅葉をちらしたお蓮様が
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)