茶漬ちゃづ)” の例文
茶漬ちゃづけには、熱湯を少しずつ注いだ濃い目のものを用いるのがよい。しかし、抹茶まっちゃ煎茶せんちゃにしても、最上のものを用いることが秘訣ひけつだ。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「もう時刻ですから、ほんの茶漬ちゃづけを一ぱい差し上げる。何もありませんが、勝重の家で昼じたくをしていらしってください。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「まあ、いろいろ聞きたいこともある。こんな玄関先じゃ話もできない。何もないが茶漬ちゃづけを一ぱい出すで、勝手口の方へ回っておくれ。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
にもかかわらず、佃煮にして食べようというのであるから、ごり茶漬ちゃづけは天下一品のぜいたくといわれるのである。
京都のごりの茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
何か有り合わせのもので茶漬ちゃづけを出してもらおうとすると、亭主ていしゅが季節がらの老茸ろうじでも焼こうと言っているところへ
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あなごもいろいろ種類があって、羽田はねだ、大森に産する本場ものでなくては美味うまくない。これも茶漬ちゃづけにするには、その焼き方を関西風にならうがいい。
鱧・穴子・鰻の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
この食通も、てんぷらなら二十や三十はわけなくペロリと平らげるが、茶漬ちゃづけという名がつくと妙におじけだす。
車蝦の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「こうして御酒ごしゅでもいただくと、実に一切を忘れますよ。わたしはよく思い出す。金兵衛さん、ほら、あのアトリ(獦子鳥)三十羽に、茶漬ちゃづけ三杯——」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ちょうど吉左衛門は上の伏見屋に老友金兵衛をたずねに行っていて、二人茶漬ちゃづけを食いながら、話し込んでいるところだった。そこへ半蔵と伊之助とが帰って来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だから、大き目の茶碗がよい。ぜいたく者の茶漬ちゃづけは、めしが少なくて茶が多いほうが美味い。飯の多い方の茶漬けは番茶がいいが、飯の少ない方の茶漬けには煎茶せんちゃを可とする。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
新茶屋に建てた翁塚おきなづか、伏見屋の二階に催した供養の俳諧はいかい蓬莱屋ほうらいやの奥座敷でうんと食ったアトリ三十羽に茶漬ちゃづけ三杯——「あの時分」を思い出させるようなものは何かにつけ恋しかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あとで出す茶漬ちゃづけのさいには煮豆に冬菜のひたしぐらいでよろしのたぐいだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鏑川かぶらがわは豊かな耕地の間を流れる川である。そのほとりから内山峠まで行って、嶮岨けんそな山の地勢にかかる。朝早く下仁田を立って峠の上まで荷を運ぶに慣れた馬でも、茶漬ちゃづけごろでなくては帰れない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
馬籠を木曾路の西のはずれとするなら、落合は美濃路の東の入り口に当たる。落合から馬籠までは、朝荷物をつけて国境くにざかい十曲峠じっきょくとうげを越して行く馬が茶漬ちゃづけまでにはもどって来るほどの距離にしかない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)