茅野ちの)” の例文
母は茅野ちの氏で、たまといい、これも神田の古い大きな箪笥たんす屋の娘であった。玉は十六の年から本郷の加賀さまの奥へ仕えていた。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
高島の城下から一里ほど離れた宮川の里茅野ちのの郷の、立て場の茶屋で服部兄妹、範之丞と織江とが雲助や馬方に、何やら難題をもちかけられていた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三郎が京の茅野ちのさんのところへ行つてからもう十五日になる、花樹はなき何時いつ行つたのであらうなどヽ考へながら私は引き離された双生児ふたご瑞樹みづき枕許まくらもとへ坐ります。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
長谷川時雨しぐれ、岡田八千代、茅野ちの雅子、森真如しんにょなど、美しいミスたちが、金魚のように押し並んでいた。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
うさぎさんも、お靴も、小田桐おだぎりさんのところも、茅野ちのさんのところも、みんな焼けちゃったんだよ。」
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それから茅野ちの駅近く迄鉄道線路に沿つて流れ、その後西流し、再び北流して諏訪湖に注ぐのであるが、下流は灌漑のいくつかの用水路に分れて、春の乗込鮒のっこみぶなの水路となつて居る。
釣十二ヶ月 (新字旧仮名) / 正木不如丘(著)
その居士こじが、いや、もし……と、莞爾々々にこにこと声を掛けて、……あれは珍らしい、その訳じゃ、茅野ちのと申して、ここから宇佐美の方へ三里も山奥の谷間たにあいの村が竹の名所でありましてな
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八月七日、上諏訪に一泊し、翌朝、茅野ちのから泉野いずみのというところまでバスで行った。
本の上には京の茅野ちのさんの手紙が置いてあるのです。私は全集に就いてして呉れた茅野ちのさんの親切な注意をよく読んで見たいと思ひながら遅くなるからと思つてそれはめると云ふのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
私の日本を立つ時に敦賀まで来て下すつた茅野ちのさんも、ひかるさんは憎まうとしても憎めない性質を持つて居るから叔母さんも可愛がりなさるでせうと云つて私を安心させて下すつたのでしたが
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)