“花卉(くわき)” の例文
車は月桂(ラウレオ)の街樾(なみき)を過ぎて客舍の門に抵(いた)りぬ。薦巾(セルヰエツト)を肘(ひぢ)にしたる房奴(カメリエリ)は客を迎へて、盆栽花卉(くわき)もて飾れる闊(ひろ)き階(きざはし)の下(もと)に立てり。
天禀(てんぴん)ならむは教へずとも大なる詩人となりぬべし。野に生(お)ふる花卉(くわき)の麗(うるは)しさ、青山の自然の風姿、白水のおのづからなる情韻、豈人間の所爲ならむ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
月正に五月に入つて旬日を経たる頃なり。もし花卉(くわき)を愛する人のたま/\わが廃宅に訪来(とひきた)ることあらんか、蝶影(てふえい)片々たる閑庭異様なる花香(くわかう)の脉々として漂へるを知るべし。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
粗(あら)い壁 二三の花卉(くわき)
山果集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
花卉(くわき)の薫(かをり)、幽かなる樂聲、暗き燈火(ともしび)、軟(やはらか)なる長椅は我を夢の世界に誘(いざな)ひ去らんとす。現(げ)に夢の世界ならでは、この人に邂逅すべくもあらぬ心地ぞする。
北には暗黒なるアルピイの山聳え、南には稍〻低き藍色のアペンニノ横はりて、此間を填(うづ)むるものは、唯だ緑なる郊原のみ。譬へばカムパニアの野を變じて一の花卉(くわき)多き園囿(ゑんいう)となしたらんが如し。