自鳴鐘とけい)” の例文
と、微苦笑びくしょうをもらしながら、しばらく、腕をこまぬいて黙想に耽っていたが、やがてジジジジジと机の自鳴鐘とけいが鳴り出すと共に
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
カラカラチーン、チーン、チーン、チーン……気まぐれな隣の自鳴鐘とけいがもう夜の十時をつ、夕日がくわつと壁から鏡に照り反す。鶏頭が恍惚うつとりと息をつく、風が光る。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その海外知識はまた、宗教を通じ、美術を通じ、鉄砲を通じ、織物や陶器や自鳴鐘とけいを通じて——日に月に滔々とうとう東漸とうぜんして来た時でもあった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くされたる黄金わうごんふちうち自鳴鐘とけいきざみ……
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その夜愛宕あたごの下屋敷では、脇息きょうそくにもたれて松平忠房が、さっきから自鳴鐘とけいばかり睨んで、仇討の首尾如何にやと、しきりに気懸りな様子である。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三位卿は膝もくずさず、時々、うしろの自鳴鐘とけいをふりかえっていた。眼のさえた啓之助の頭には、船出ふなでのことと一緒に、お米の姿が描かれてくる……。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、自鳴鐘とけいが鳴ると、若侍たちは皆、退座した。忠利は、眠ってからも、考えていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方では東儀与力、彼も伝馬牢へ出張して、最前から役室の自鳴鐘とけいをじっとにらみながら
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ギリギリギリ……と髪切虫かみきりむしくような自鳴鐘とけいの音が、その時、有村の後ろでした。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自鳴鐘とけいだの——と数えて行ったらりもないほどである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)