胆汁たんじゅう)” の例文
旧字:膽汁
彼はときどき身体中に滲みうごく胆汁たんじゅうのことを思った。彼の想像のなかの胆汁は、うみがある種の軟膏のように、黄色くどろどろしていた。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
何かいい薬はないだろうかと、いろいろそうだんしたが、これはたぶん、胆汁たんじゅうのふそくからきた病気にちがいない、にがい薬をのませたらいいだろう。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
怒りを意味する choler はギリシアの胆汁たんじゅうのコレーから来ているそうで、コレラや gall や yellow なども縁があるそうである。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
胆汁たんじゅう質のなつかしみのない娘で、熱い荒っぽい小さな魂をもっていた。母や姉が、泣き、苦しみ、あきらめ、堕落し、死んでゆくのを、彼女は見てきた。
結局とどのつまり、すべてが「鷹の城ハビヒツブルグ」に集注されてしまうのだが、そうして、二人はこの短時間のうちに、全身の胆汁たんじゅうを絞り尽したと思われるほどの、疲労を覚えたのであった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
時は金なりという言葉を除けば、イギリスには何が残るか。綿は王なりという言葉を除けば、アメリカには何が残るか。またドイツは淋巴液りんぱえきであり、イタリーは胆汁たんじゅうだ。
主人公の顔貌かおだちが能面でもあるかのように上品すぎることと、その胆汁たんじゅうみだしたような黄色い皮膚と、そして三十女の婦人病を思わせるような眼隈めのくまくろずみぐらいなものであった。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
生理学上で食物を消化するのは五つのえきだ。第一が唾液だえき、第二が胃液、第三が膵液すいえき、第四が胆汁たんじゅう、第五が腸液さ。そのうちで唾液と膵液と腸液の三種が米や麦のような澱粉質を消化する。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
葉子は口びるだけに軽い笑いを浮かべながら、胆汁たんじゅうのみなぎったようなその顔を下目で快げにまじまじとながめやった。そして苦い清涼剤でも飲んだように胸のつかえをかしていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
冷たい胆汁たんじゅうに触れることが出来るのである。
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
唾液だえき、胃液、腸液、膵液すいえき胆汁たんじゅう、粘液その他必要の液をことごとく供給し、一つ体中諸機関の消耗しょうもうを補いて肉ともなり、皮ともなり、毛ともなり、骨ともなりて常に人体の要部を補給するなり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)