胃嚢いぶくろ)” の例文
畳屋からノソリと出て来たのは朱房の源吉、朝っからアルコールが胃嚢いぶくろへ入ったらしく、赤い顔とすわった眼が、なんとなく挑戦的です。
新吉はいつもの生理的な不安な気持ちに襲われ胃嚢いぶくろおさえながら寝椅子から下りた。早くアッペリチーフを飲みたいものだ。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
車中で揺られるたびに、五尺何寸かある大きな胃嚢いぶくろの中で、腐ったものが、波を打つ感じがあった。三時過ぎにぼんやりうちへ帰った。玄関で門野が
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると——魂がなくなつてゐる! 彼は慌てて胃嚢いぶくろを探しはじめるのであつたが
霓博士の廃頽 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「御承知の通り孔雀一羽につき、舌肉の分量は小指のなかばにも足らぬ程故健啖けんたんなる大兄の胃嚢いぶくろたす為には……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
胃嚢いぶくろが不意に逆に絞り上げられた——女中の裾から出るげた赤いゆもじや飯炊婆さんの横顔になぞってある黒びんつけの印象が胸の中を暴力のように掻き廻した。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
胃嚢いぶくろの中にヒソヒソと頻りに花の降る音が遠く遥かに続いてゐる。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
同時に胃嚢いぶくろが運動を停止して、雨に逢った鹿皮を天日てんぴし堅めたように腹の中が窮窟きゅうくつになる。犬がえればいと思う。吠えているうちはいやでも、厭な度合が分る。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)