翠微すいび)” の例文
翠微すいびかん一抹いちまつの煙がある——煙の下にはきっと火がある、火の近いところには人があるべきものにきまっています。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ことに、美奈子達の占めた一室は、ホテルの建物の右の翼のはずれにあった。開け放たれた窓には、早川の対岸明神岳明星岳の翠微すいびが、手に取るごとく迫っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ことにまた手近の脚下を見ると、雲仙の山脚さんきゃくが長く遠くその尾根をひいている翠微すいびの中に聯環れんかん湖であり山上湖であるところの諏訪池がたたえられ、それが曲玉まがたまのような形をして
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
二階へ上がると部屋もざっと掃除がすんでおり、均平は縁側のぼろ椅子いすに腰かけて、目睫もくしょうの間に迫る雨後の山の翠微すいびを眺めていた。寝しなに胸を圧していたあの感傷もあとなく消えた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その蕪村が「草の戸によき蚊帳たるゝ法師かな」とか「蚊帳釣って翠微すいび作らん家の内」とか、かように飛び離れた趣向を案じている間に、太祇は目前の卑近な事実を捕えてこの句を作っている。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
特に「翠微すいび」といふは翠の字を蚊帳の色にかけたるしやれなり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
特に翠微すいびというは翠の字を蚊帳の色にかけたるしゃれなり。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)