繋縛けいばく)” の例文
避け、用心し、注意しつゝも、人間は時として繋縛けいばくの中に落ちて行くものではないか。根本的に、人間にはさうしたところがなくはないか。
批評的精神を難ず (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
それは要には意外でないことはなかったけれども、同時に繋縛けいばくを解かれたような、不意に肩の荷が除かれたような気安さを与えないでもなかった。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あの超人の出来損い、またしても自分の弱い性情に附込んで繋縛けいばくとなるのか。そうは思ったが、彼はやっぱり急に道筋を変え、美濃の檜木へ行った。彼は無言で馬翁の看護をした。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし、一たび小さい自我の「繋縛けいばく」を離れて、如実にょじつに一心を悟るならば、一切の苦悩は、たちまちにしておのずから解消するのです。要は、一心の迷いと悟りにあります。まことに
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
嗅味等の繋縛けいばくから解放されてこそ、初めて民藝の真価がわかる。私たちは民藝の外敵等、そう歯牙にかけずともよい。吾々は外敵より一歩先に歩いているという信念を捨てる要がないからである。
改めて民藝について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
日夜悪念去らず、妄執に繋縛けいばくさるる者の企て及ぶべからざる、いわゆる不言いわずして名教中の楽土に安心し得る者なり。無用のことのようで、風景ほど実に人世に有用なるものは少なしと知るべし。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
常にしたがえる業鬼ごうきは我を繋縛けいばく
うすいうすい真綿の毛のような繋縛けいばくがいつも絡みついてたいして堕落だらくへ引き込むという懸念も無い代りに綺麗に吹き払おうと思えばなかなか除きにくい、これが自分の性情の運命である。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)