絵絹えぎぬ)” の例文
われらが俗に画と称するものは、ただ眼前がんぜんの人事風光をありのままなる姿として、もしくはこれをわが審美眼に漉過ろくかして、絵絹えぎぬの上に移したものに過ぎぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の最初の先生は、その箕面の滝と殆ど同じぐらいの温順さにおいて紅毛氈あかもうせんの上へ端然と坐して絵絹えぎぬに向っていた。そして私のために一本の竹を描いて見せた。
見れば風呂敷包みのほかにも紙に巻いた絵絹えぎぬらしいものを持っている。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
白とべにとが解けあったところを、指のさきにすくいとると、かたわら絵絹えぎぬの上へ、くるりと、女の腰の輪かくを一息に丸く描いて、その次には、上の方へもっていってポチリと点を打ったあがりをおいた。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
暗黒の其のおもてこそは絵絹えぎぬなりけれ。
忘られし絵絹えぎぬおも