稲束いなたば)” の例文
旧字:稻束
前へ立ったのは、みのを着て、竹の子笠をかぶっていました。……端折った片褄かたづま友染ゆうぜんが、わらすそに優しくこぼれる、稲束いなたばの根に嫁菜が咲いたといった形。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
健吉は、稲束いなたばを投げ棄てゝ急いで行って見ると、番をしていた藤二は、独楽の緒を片手に握ったまま、暗い牛屋の中に倒れている。頸がねじれて、頭が血に染っている。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
これだと荷繩を掛けるための時間は、はぶかれるが、そのかわりにはしばとかかやとか稲束いなたばとか、ぜひともしっかりとたばにむすんだもので、棒を刺しても損じない物でなければならない。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それほど寂しい、それほどわびしい住居に自分自身を見出すのが、私にはせめてもの気休めになった。その川を前にして果てしもなく拡がっている田の面には、ところどころに稲束いなたばが刈り干されていた。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)