癇走かんばし)” の例文
「恩に着せやしないって今云ったじゃありませんか」とお秀が少し癇走かんばしった声で弁解した。お延は元通りの穏やかな調子をくずさなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫人の気持を知っている侍女こしもとすえまでが、御表の物音を聞くと、常には、静かな足も走って、つい、声までが癇走かんばしって欣びを告げるのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蓮鉢を越して向ふ側の廂房しやうばうから、眼でもましたのだらう、急に赤ん坊の癇走かんばしつた泣き声が聞えて来た。梧桐は仄暗ほのぐらく、蓮は仄白く、赤ん坊の声だけが鋭い。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
癇走かんばしつた声が打叩きする音に交つてしきりきこえる。鏡子は立つてかうとしてまた思ひ返して筆をとつた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
こらえていたものが吹ッ切れたように、阿波守の声、やや冷静をかいて癇走かんばしった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の語気は癇走かんばしっていた。津田は急に穏やかな調子を使う必要を感じた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
癇走かんばしったお綱の声に耳も貸さないで、いきなり頭巾に手をかけた一人が
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
癇走かんばしった上に何だか心細い。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おい、お待ちッ!」と、癇走かんばしった声を投げた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)