疾風雲はやてぐも)” の例文
貴公のいう通り、所詮、るなと祈っても、いくら警固や防ぎをしてみても、先は、空をけてくる疾風雲はやてぐものようなものだ。一暴風雨ひとあらしけられまい
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嬰児あかごが泣く、女たちが呼び交わす。——そして見るまに、その人々の上には、疾風雲はやてぐものような黒煙が、太陽を赤くいぶして、空いちめん拡がってゆく。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
箱根連峰は、見ているまに、疾風雲はやてぐもにつつまれて、すぐ近い函南かんなみの中腹には、かっと真っ蒼に陽がえていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さしたる降りはありませぬ。晩春の空癖そらくせで、山には一日一度ずつ、きっとこんな疾風雲はやてぐもが通るのです」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とばかり、疾風雲はやてぐものごとく、河川をのぼり、野を踏破して、昼夜わかたず、華州かしゅうへ急行したのだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山名の本拠は但馬たじまである。——さきに石見いわみに落ちていた足利直冬ただふゆとむすび、伯耆ほうき、出雲の兵をあつめて、それはたちまち、京都をおびやかす一団の疾風雲はやてぐもになり出していた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一片の雲さえなく晴れていた空の遠い西の方に、黒い綿を浮かべたようなものがただよって来た。やがて、疾風雲はやてぐものように見る見るうちにそれが全天に拡がって来たかと思うと
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒けむりはたちまち疾風雲はやてぐもけるに似、名月は血の色そのまま、剣光の雨と叫喚きょうかんを下に見ていた。——まもなくかるる風葉ふうようのごとく、県尉けんいの馬や捕手の群れは逃げ散ッた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、急な疾風雲はやてぐものように、山窟さんくつの門から駆けだして行った。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すわ疾風雲はやてぐもだ。濡れないうちに早く逃げろ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)