疎懶そらん)” の例文
隅田川に関する既徃の文献は幸にしてはなはだ豊富である。しかし疎懶そらんなるわたくしは今日の所いまだその蒐集しゅうしゅうに着手したわけではない。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もとは自分の一時の疎懶そらんゆえと後悔したが、もはや追付かず、表向きに顔を出すことが出来ぬ身になり、その後、金平のお金という女と夫婦になり
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
北越に通ずる街道の一宿しゅくではあるけれども、土地が土地だけに余り繁華な所ではないのであるが、その中にも一茶は極めて貧しい百姓であって、ことに硬骨で疎懶そらん
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
画家は多くはその性疎懶そらんにして人に頼まれたる事も期日までに出来るは甚だ少きが常なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼の茶山に疎懶そらんを怪まれたのも、勝手の不如意が一因をなしてゐたのではなからうか。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
疎懶そらんなのか、尊大なのか、それは解らないが、とにもかくにも、小さい型の中に閉じ籠って、あまり世界の音楽界の水準に近づこうともしない人たちの多い中に、S氏の如き夢想家は
同時に、わたしの疎懶そらんが、そのわたしの意図を裏切ったのに違いない。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
一度ひとたび愛すれば正に進んでかくの如くならざる可からず。三昧のきやうに入るといふもの即ちこれなり。われ省みてわが疎懶そらんの性遂にこゝに至ること能はざるを愧づ。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
疎懶そらんの手はあかつきの焔と