畦路あぜみち)” の例文
良心の呵責に耐え切れず、漸く見出した隙間を見て、お鉄の家の裏庭から、がけを雑草にすがりながら、谷地の稲田の畦路あぜみちにと降りた。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
その蘆の根を、折れた葉が網に組み合せた、裏づたいの畦路あぜみちへ入ろうと思って、やがてみ出す、とまたきりりりりと鳴いた。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
麦と葡萄ぶだう青白あおじらんだ平野の面に赤と紫の美しい線をいろどるのは、野生の雛罌粟コクリコと矢車草とがすべての畦路あぜみちと路傍とをうづめて咲いて居るのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
二人ともに振りかえりて、女は美しく染めたる歯を見せてほほえみしが、また相語りつつ花いばらこぼるる畦路あぜみちに入り行きたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
暗い畦路あぜみちくさむらの中などを行くのですから、お召物が汚れます、どうかこれにお着替えになってと云って出されたのは、今夜のために特に用意したものなのか
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
十歳とおばかりの頃なりけん、加賀国石川ごおり松任まっとうの駅より、畦路あぜみちを半町ばかり小村こむら入込いりこみたる片辺かたほとりに、里寺あり、寺号は覚えず、摩耶夫人おわします。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)