畏縮いしゅく)” の例文
家庭でこそかれを強圧するものがあり、畏縮いしゅくさせるものがあったとはいえ、一たび外に出れば、そこには自由な小天地がかれをここちよく迎えてくれた。
こちらの派手はでな参詣ぶりに畏縮いしゅくして明石の船が浪速のほうへ行ってしまったことも惟光が告げた。その事実を少しも知らずにいたと源氏は心であわれんでいた。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
胸がキューッと締め付けられ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッとあえぎはするがそれは畏縮いしゅくした喘ぎである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
実際自分が眼を上げて、囲炉裏いろりのぐるりに胡坐あぐらをかいて並んだ連中を見渡した時には、遠慮に畏縮いしゅくが手伝って、七分方しちぶがたでき上った笑いを急にくずしたと云う自覚は無論なかった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
芸術はために進んだとしても、科学と政治思想はために畏縮いしゅくした。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
気持が畏縮いしゅくしてしまって、そんな空想など雲散霧消した。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その顔が——実はその顔で全く畏縮いしゅくしてしまった。と云うのはその顔がただの顔じゃない。ただの人間の顔じゃない。純然たる坑夫の顔であった。そう云うより別に形容しようがない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は恐ろしい空の中で、黒い電光がれ合って、互に黒い針に似たものを隙間すきまなく出しながら、この暗さを大きな音のうちに維持しているのだと想像し、かつその想像の前に畏縮いしゅくした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしはむしろ先生の態度に畏縮いしゅくして、先へ進む気が起らなかったのである。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)