猿猴えんこう)” の例文
第一種職業婦人式第二種職業婦人は、かように到る処に居るには居るが、慣れない者には猿猴えんこうが月で手に取る方法がわからない。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
いろいろの動物について試験してみると、蛇を怖れるは猿猴えんこうの類に限る、但しその中で狐猿きつねざるという一種のみは蛇をしかけても平気だという。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ものごとにお気をつけられることは猿猴えんこうのこずえをつたうがごとく、御はつめいなことは鏡にかげのうつるがごとく
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人類の幸福のために、その捨棄を議することは愚かであろうか。あの盲腸の手術は、人間を猿猴えんこうに戻したであろうか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
眼は青かったが、その眼は高すぎる鼻の方へ引っぱれて、猿猴えんこうにも似ていたが、見ようでは高僧にでもありそうな相もあった。やや下卑げびていたこともたしかだった。
かの猿猴えんこうが水の月をすくうとおなじように、この姉妹も水にうつる二つの美しい顔をすくい上げたいような心持で、夜のふけるのを待ちかねて毎晩毎晩忍んで行った。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、どうだろう、その時までは、いるとも見えず静まって、彼らの王なる卯ノ丸の動作を、凝視していた数百の猿猴えんこうが、八方の木々の枝葉の間で、嵐のように啼き出した。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
南洋系の縮毛にユダヤ系の鷲鼻をもち眼付は狡猾で手足の相は猿猴えんこうめき好色無恥であつた。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
御存じの如くそれがしは三ヶ年濃州に罷在まかりありて信長の処置を見覚えて候ふが、心のはやきこと猿猴えんこうの梢を伝ふ如き振舞に候へば三田村まで御陣替あらば必ずその手当をつかまつり候ふべし。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
猿猴えんこうのよく水に下るはつなげる手あるがため、人の立身するはよき縁あるがためと、早くも知れる彼は、戸籍吏ならねども、某男爵は某侯爵の婿、某学士兼高等官は某伯の婿
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
日本太郎の針金渡りは猿猴えんこう栄次のイミテーションであると教えていただいた。
艶色落語講談鑑賞 (新字新仮名) / 正岡容(著)
秀吉アッと気付いて、ヤア小便だ/\。時ならぬ猿猴えんこうの叫び声。「容貌矮陋わいろう、面色黎黒れいこく
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
偶然石のほこらから、手に入れたところの品なのであるが、この品を手中に入れた時から、一匹の巨大な猿猴えんこうのようなけだものが、たえず自分の近くにいて、守護するように思われてならなかった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼の左右、彼の頭上で、猿猴えんこうの群れが啼き叫んでいた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……沼では水牛が水を飲み、林では猿猴えんこうが眠っている。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)