無精鬚ぶしょうひげ)” の例文
また大男に洗いざらしの浴衣ゆかた無精鬚ぶしょうひげに焼味噌のさがりたる、この世に二つ無き無体裁と、ちゃんと心得て居るゆえ、それだけ、貧にはもろかった。
喝采 (新字新仮名) / 太宰治(著)
無精鬚ぶしょうひげというのをとらえて、それを「剃杭」といって、そのくいに馬をつないでも、ひどく引っぱるなよ、法師が半分になってしまうだろうから、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「はれてるんじゃないか? 近頃君は段々円生えんしょうに似て来たよ。円生が無精鬚ぶしょうひげを生やしたようだよ」
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
……と……駐在所の入口になっている硝子戸が内側からガタガタといて、色の黒い、人相の悪い顔に、無精鬚ぶしょうひげ蓬々ぼうぼうと生した、越中褌えっちゅうふんどし一つの逞ましい小男が半身を現わした。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一人は一方の目に大きな眼帯を当てた、無精鬚ぶしょうひげの大男、一人は黒眼鏡をかけた、痩せっぽちの小男だ。その二人が、小型ピストルを構えて、じっと川手氏に狙いを定めているのだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いつも炉端に寝そべっていて働かないが、無精鬚ぶしょうひげがのびて来ると、堂堂たる総大将の風貌であたりを不平そうに眺めている。剃刀かみそりをあてると、青い剃りあとに酒乱の痕跡の泛び出た美男になる。
片膝かたひざをついて、私は彼の身体を起そうとした。首が、力なく向きをかえた。無精鬚ぶしょうひげをすこし伸ばし、閉じた目は見ちがえるほどくぼんで見えた。弾丸は、額を貫いていた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
装っているのだ。それにちがいないんだ。なにからなにまで見せかけなのだ。僕のにらんだ眼に狂いはない。ところどころに生え伸びたまだらな無精鬚ぶしょうひげ。いや、あいつに無精なんてあり得ない。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
不思議なくらいに顕著なおでこと、鉄縁の小さな眼鏡とたいへんなちぢれ毛と、とがったあごと、無精鬚ぶしょうひげ。皮膚は、大仰な言いかたをすれば、うぐいすの羽のような汚い青さで、まったく光沢がなかった。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)