ぬか)” の例文
この辺の土質は花崗岩の霉爛ばいらんした砂地である為に、雨は降っても道はぬからない。路傍の草なども綺麗に刈り払われてあった。
この辺はいわゆる山の手の赤土で、少しでも雨が降ると下駄の歯を吸い落すほどにぬかる。暗さは暗し、靴はかかとを深く土に据えつけて容易たやすくは動かぬ。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天気は非常によかったけれど、地面がひどくぬかっていたため、泥が車の輪にへばりついてたちまちまるで毛氈フェルトでもかけたようになり、それがため馬車はぐっと重くなった。
少し雨でも降り続くと、道といふ道は、まるで糠味噌のやうにぬかつてしまふ。
それに傘をもささねばならなかつた。道は非常にぬかつて居た。どうせ遊んで居る閑人だ、運動なら自分で連れて歩け……と言つた言葉を思ひ出すと、彼は歩きながら悲しげに苦笑を洩した。
重「大分だいぶ傳助道がぬかるのう」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
直ぐ羊歯しだなどの生えた下から水を噴いてぬかり易い山腹にかかる、それも少し、また河原へ下りて虎杖の中に隠れる。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
雨はんだが道はぬかるので足が重い。十一時天科に着いて水を入れる用意に一升入れの石油缶を買ったなどは、奇想天外から来たと自慢する価値はあろう。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
猟師の所謂いわゆるノタも鹿の好む場所である。小石交りのじめじめした、草も木も生えないぬかり気味のある山上の平な窪地で、それをこね返して夢中になって遊んでいるものだと猟師が話して聞かせた。
鹿の印象 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)