潮騒しおざい)” の例文
旧字:潮騷
頭の上ではざあざあと降りしきる雨の中に、荒海の潮騒しおざいのような物すごい響きが何か変事でもわいて起こりそうに聞こえていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
敬二郎は驚きの目をみはって言った。彼の胸は潮騒しおざいのようにせわしく乱れていた。彼は紀久子の顔から、いつまでも目を離すことができなかった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
風が出たとみえて、庭の立樹たちきがゴウッ——潮騒しおざいのように鳴り渡って、古い家である、頭のうえで、家棟やむね震動しんどうがむせび泣くように聞えてくる。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
墓地の草の葉を撫でていく湿った海風は誰のためだろう? 潮騒しおざいのような風の音、滲みだすようにひびいてくる爆音は誰のためだろう? それは墓の前に坐っているあたしのためだ。
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
星は語らない。ただはるかな山すそから、干潮になった無月の潮騒しおざいが、海妖かいようの単調な誘惑の歌のように、なまめかしくなでるように聞こえて来るばかりだ。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ただときどき家を鳴らして渡る小夜嵐さよあらしが、遠くの潮騒しおざいのように余韻を引いて過ぎるばかり。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なぎのときは手頃な入江だが、風が吹くと、悪い潮騒しおざいがたって危険な場所になる。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)