浸潤しんじゅん)” の例文
自分では時々肩のりを感ずる位だけど、医者の言によれば右肺に大分浸潤しんじゅんがあるらしい、そして激変を憂うるとのことである。
恩人 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
政党政派の関係があらゆる商売取引に浸潤しんじゅんし、政党への顧慮こりょなくしてはいかなる商売も成立しなかったことが、ひとつである。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
私は一冊の手帳を求め、平生へいせいこれを懐中かいちゅうして居るようにした。そうすると霊気が浸潤しんじゅんして、筆の運びがはやいからである。
ずイタドリについていうならば、その北方の限界は越後であり、南端は土佐の海に及んで、中間にタチヒの領域を包み、九州にはわずかなる浸潤しんじゅんの痕を見るのみである。
新聞社にいたころから時々自転車の上で弱いせきをしていたが、あれからもう半年、右肺尖カタル、左肺浸潤しんじゅんと医者が即座にきめてしまったほど、体をこわしていたのだった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
日本の本州の北端の寒村の一童児にまで浸潤しんじゅんしていた思想と、いまのこの昭和二十一年の新聞雑誌に於いて称えられている「新思想」と、あまり違っていないのではないかと思われる。
苦悩の年鑑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
沖縄では仏法の浸潤しんじゅんがなお浅く、念珠ねんじゅというものを知らぬ人が多いにもかかわらず、この草の実はよく知られ、これを緒に貫いて頸にかける風習も相応に普及している。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)