河面かわづら)” の例文
彼れが気がついた時には、何方どっちをどう歩いたのか、昆布岳の下を流れるシリベシ河の河岸の丸石に腰かけてぼんやり河面かわづらを眺めていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
残暑の夕日がひとしきり夏のさかりよりもはげしく、ひろびろした河面かわづら一帯に燃え立ち、殊更ことさらに大学の艇庫ていこ真白まっしろなペンキ塗の板目はめに反映していたが
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いと賑々にぎにぎしけれど今日は淋びしく、河面かわづらにはさざなみたち灰色の雲の影落ちたり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
もういくら待っても人通りはない。長吉は詮方せんかたなく疲れた眼を河の方に移した。河面かわづら先刻さっきよりも一体にあかるくなり気味悪い雲の峯は影もなく消えている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
道子は橋の欄干に身をよせると共に、真暗な公園のうしろに聳えている松屋の建物の屋根や窓を色取る燈火を見上げる眼を、すぐさま橋の下の桟橋から河面かわづらの方へ移した。
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのかたわら尻端折しりぱしょりの男一人片手を上げて網船賑ふ河面かわづらかたを指さしたるは、静に曇りし初夏の空に時鳥ほととぎすの一声鳴過なきすぎたるにはあらざるか。時節はいよいよ夏のさかりとなれり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)