気配けはひ)” の例文
旧字:氣配
あちら側にも人の動く気配けはひがあつたが、ちやうどその時、その中から口争ひをはじめた男と女の声が聞えて来たのである。
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
画室で静物を描いてゐた主人の一蔵が、食事の気配けはひを習慣で感じて、ノツソリ入つて来た。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
ある日、軽い頭痛がして川原を歩いてゐると、出て来た雲が見る見るうちに険しくなつて来、むかうに鳴つてゐた雷が急速度に強まる気配けはひがしたから、兎に角土手の方へ急いだ。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
十分間ばかりも待つたが、一向車の来さうな気配けはひもなかつた。通りの店々は皆もうとつくに閉つて了つて、ほの暗い軒燈の光が、ぽつり/\間遠に往来を照らしてゐるのみで、人通りも殆どなかつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
遠野が何か云ひながら上つて来る気配けはひがする。道助は蒲団を冠つた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
どうにもならないさびしい庭、深い気配けはひの庭、幽かな庭。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この夜更よふけに、わたしの眠をさましたものは何の気配けはひか。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
物音を立てなくとも、極めて神経過敏な自分は、誰か入つて来ればその気配けはひですぐに眼ざめて了ふ。眼をあけると、母親の小さな顔が恐しいばかりに真剣な表情で真近くのぞき込んでゐるのだ。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
澄みわたりいよよ静けき時今をみや成らすらしみ気配けはひ聴かゆ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)