気忙きぜ)” の例文
旧字:氣忙
髪をくしけづり、粉白粉こなおしろいもつけて、また、急いで食堂へ戻つたが、網戸をたたく白い蛾の気忙きぜはしい羽音だけで、広い食堂は森閑しんかんとしてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
鈴木商店の金子直吉氏といへば、年が年中二十日鼠のやうに気忙きぜはしく、金儲けのために働いてゐる外には何一つ持ち合はさない男である。
空では雲雀ひばり気忙きぜわしく、ひっきりなしに歌を唄い、千曲川の流れるほとりからは、川をさかのぼる帆船の風にはためく音がする。二人はやっぱり黙っていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こう云う泰さんのたくみな芝居に、気がつく筈もありませんから、「じゃお敏さん、早く行ってお上げなさいよ。」と、気忙きぜわしそうに促すと、自分も降り出した雨にあわてて
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ゆき子の柔い首を抱き、富岡は激しく接吻をした。新しい女に触れるやうな、新鮮な香りがして、富岡は気忙きぜはしく、ゆき子の大きい腰を抱いた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
狭い可愛い車体だつたが、二等車は案外、贅沢ぜいたくな設備がしてあつた。ソファや、小卓があり、小さい扇風機も始終しじゆう気忙きぜはしく車室をかきまはしてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)