殊更ことさ)” の例文
と、これも、みんなにくつろぎを勧めでもするやうな、殊更ことさらにおどけた調子で、少し離れたところから、ほかの者が、それにつけ加へた。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
それに、女中部屋となると、一番遠い台所のそばにあるのだから、殊更ことさら耳でもすましていない限り、先ず聞え相もないのだ。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ぎらぎらとまたたく無数の星は空の殊更ことさら寒く暗いものにしていた。仁右衛門を案内した男は笠井という小作人で、天理教の世話人もしているのだといって聞かせたりした。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ソンな事かた/″\で、私の著訳書は事実の如何いかんかかわらず古風な人の気に入るはずはない。ソレでもその書が殊更ことさらにおおいに流行したのは、文明開国のいきおいに乗じたことでありましょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私などは特に犬猫に近いためか子供の時から殊更ことさら動くものに興味を持っていた。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
それがまだ小さな子供であった為、誰も、刑事さえも、殊更ことさら疑いの目を向ける様なことはなかったけれど、三谷二郎少年の様子は、如何にも変であった。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どういう訳か、その彼女の不思議な言葉が、殊更ことさら忘れがたく頭の底にこびりついて離れなかった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その後、賊は魔術師の様な怪人物と分ったので、あれも魔術的な一種の変装であったのだろうと、警察でも、明智小五郎さえも、殊更ことさらその巨人について穿鑿せんさくをしなかった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まだ博覧会が始まったばかりで、場慣れのしない四人の者は、殊更ことさらこんな経験は初めてだったので、何となく喉の乾く様な気持がしていた所だ。早速そのお茶を飲みほした。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
多くは、沖の島の事務所に寝泊りをするのですが、時たま邸に帰っても、妙にへだてを作って、打ちとけて話合うでもなく、夜なども、殊更ことさら部屋を別にしてやすむ様な有様でした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)