樹影こかげ)” の例文
少しばかり強く風が渡ると、光りの薄い星が瞬きをして、黒いそこらの樹影こかげが、次ぎから次ぎへと素早くささやきを伝へて行く。
散歩 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
ほやり/\水蒸気立つ土には樹影こかげ黒々と落ち、処女おとめそでの様に青々と晴れた空には、夏雲が白く光る。戸、障子、窓の限りを開放あけはなして存分に日光と風とをれる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
人家のまわりの庭、花の咲いた桜樹おうじゅ、緑の芝地、美しい樹影こかげ、擬古式の廃墟はいきょ、大理石の円柱台の上、緑の間には、昔の女王らの白い胸像、そのやさしいかわいい顔つき。
私達が学校の教室の窓から見える桜の樹は、幹にも枝にも紅いつやを持って来た。家へ帰って庭を眺めると、土塀どべいに映る林檎りんごや柿の樹影こかげは何時まで見ていても飽きないほど面白味がある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日を帯びた樹影こかげがちらちらと籐椅子の上に動く。樹の間から大きな夏の雲が蓬々として日に染められて動いて行くのが見える。そこにも生命の力は動いてゐるのである。この我があるのである。
孤独と法身 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
夕日傾く頃となれば、風はます/\涼しく、樹影こかげは黒く芝生におどった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)