かし)” の例文
手に大きいかしの木の杖を衝いてゐる外には、別に武器は持つてゐない。不細工な辞儀をして、純粋なパリイ人の調子で「今晩は」と云つた。
僕は当時新宿にあった牧場の外のかしの葉かげにラム酒を飲んだことを覚えている。ラム酒は非常にアルコオル分の少ない、橙黄色とうこうしょくを帯びた飲料だった。
点鬼簿 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女が続いて見ていると、それは非常に滑らかな青い竹で、その頂に二筋の黒い細い点があり、それはかしの樹の葉の上にある黒点よりも、はるかに小さい。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
その頭上にはとねりこかしが、半かけの月光や星の光を、枝葉の隙からわずかこぼし、野葡萄のぶどう木賊とくさ蕁麻いらくさすすきで、おどろをなしている地面の諸所へ、銀色の斑紋を織っていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あつらえときなさい。この人にはかしの棺ではちと高価たかすぎるからね。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
くれないかしと緑の松をうごかせども
薄暗いこちらの廊下ろうかにいると、出窓はこの家を背景にした、大きい一枚ののように見える。巌乗がんじょうかし窓枠まどわくが、ちょうど額縁がくぶちめたように見える。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)