梵妻だいこく)” の例文
突然庫裏くりの方から、声を震わせて梵妻だいこくが現われた。手にくわのような堅い棒を持ち、ふとった体を不恰好ぶかっこうに波うたせ、血相かえて来た。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
女の子の姉の方は或る山寺の梵妻だいこくになつて、生れた寺を省みることも尠く、十九になる其の妹が老僧の世話を一手に引き受けてゐるのである。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「巧雲、巧雲っ。……離縁状をくれてやるからここへ来いっ。やいっ、出て来いッていうのに、髪の毛を切って梵妻だいこくにしてくれるからここへ出て来いっ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時お寺で素麪そうめんが煮てあったんです。それから、「これは不味まずい物ですけれど」ってその梵妻だいこくが持って来たんです。そうしてそれをその死人しにんの前へ出した。
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
それをやがて起きて来た梵妻だいこくや寺男が介抱をしてやると、やっと正気づいたので、手足の泥を洗わせて方丈へ連れ込んだのであったが、熱い湯を飲ませて落ちつかせながら
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「まあ、あの人がお梵妻だいこくさんにいやらしいことでもしたと仰っしゃるの?」
梵妻だいこくになるつもりだつたのかい」
梵妻だいこくの姪で名は小枝さえという。そう聞けばやはり違うかと思うものの、見れば見るほど瓜ふたつである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
未練らしく往来の方を振かえりふりかえり、せいせい呼吸をはずませて、梵妻だいこくようやく戻って来た。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
その時、その妙善の梵妻だいこくが、お茶を持って入って来たんです。で、かく夫妻ふたりとも判然はっきり見た。
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
宅へお梵妻だいこくさんがいらっしたのよ、あのお梵妻だいこくさん、祭司長のキリール神父の奥さんがですよ、それでどうしたとお思いになって? あの温和おとなしそうな風来坊が一体どんな男だったとお思いになって?
梵妻だいこくになるつもりだったのかい」
二人にとっての苦手は、お寺の梵妻だいこくのしつっこいほど口数の多い事だった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
まあ、あのお梵妻だいこくさんがあたしに話したことを聴いて下さいよ。