栖家すみか)” の例文
とにかく、この辺には、昔の蝦夷の栖家すみかの面影は少しも見受けられず、お天気のよくなつて来たせゐか、どの村落も小綺麗に明るく見えた。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
我は尚席上にて、マリウチア、ドメニカ等に教へられし歌をうたひ、又曠野の中なる古墳の栖家すみか、眼の光おそろしき水牛の事など人々に語り聞せつ。
あゝいふ昔の人が最後の栖家すみかを求めて石見地方の寺にそれを見つけたといふのは、その事がすでになつかしい。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
木の幹などはいうに及ばず窓のふち縁側えんがわや時としては鴨居かもいまでにおる、なめくじりは雨を喜ぶあまりに自分の栖家すみかもふりすてて高歩たかあるきをしておるというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
家族は東京に殘したまゝであつたので、戻つてゆく栖家すみかには不自由がない。戸山ヶ原の近くに五百坪ばかりの地所もあり、家も燒けのこつてゐた。磯部はひとまづ、河邊の家へ落ちついた。
崩浪亭主人 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
「そこから出て来たのだ。動物は習慣に支配せられ易いもので、一度止まった処にはまた止まる。外へ棄てても、元の栖家すみかに帰る。何も不思議な事はないのですよ。兎に角この蛇はわたしが貰って行こう。」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
死者のみ、ひとり吾に聽く、奧津城處おくつきどころ、わが栖家すみか
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
景をポジリツポに取りて、わざと其名をば擧げざりき。のき傾き廊朽ちて、今や漁父の栖家すみかとなりぬ。聖像を燒き附けたる窓の下に床ありて、一童子臥したり。
その間に彼は師匠が余生を送ろうとする栖家すみかの壁、柱なぞにも目をとめて見る時を持った。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
死者のみ、ひとり吾に聴く、奥津城処おくつきどころ、わが栖家すみか
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
されど左樣なる人になりては、ドメニカが許には居られぬにや。また御館へは來られぬにや。フランチエスカ。汝は猶母の上をば忘れぬなるべし。初の栖家すみかをも忘れぬなるべし。
これがついの栖家すみかか、と考えて、あたりを見回すたびに、彼は無量の感慨に打たれずにはいられなかった——たとい、お民のような多年連れ添う妻がそばにいて、共に余生を送るとしても。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)