末世まっせ)” の例文
ただし、君は旧幕府の末世まっせにあたりて乱にしょし、また維新の初において創業に際したることなれば、おのずから今日の我々に異なり。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
林泉奥深うして水あおく砂白きほとり、鳥き、魚おどつて、念仏、念法、念僧するありさま、まこと末世まっせ奇特きどく稀代きたいの浄地とおぼえたり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
漢室四百余年の末、今ははや一人の忠臣もないものか。——朕が身を歎くのではないぞ。朕は、末世まっせをかなしむのである
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まことにようつかまつった。奇特のことじゃ。関白殿下にも定めて御満足であろう。世は末世まっせとなっても、敷島の道はまだ衰えぬかと思うと、われらも嬉しい
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これが末世まっせの証拠だと思うんです。金胎こんたい両部なぞの教えになると、実際ひどい。仏の力にすがることによって、はじめてこの国の神も救われると説くじゃありませんか。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
誰か末世まっせだという悲哀の情をおさえることができよう。日に日にその美しさは衰えて行くのだ。しかし器自らはどうすることもできない。人々の無知が歴史を破壊しつつあるのだ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
僕などは、この遍路からたいへん勇気づけられたとっていい、そうして遂に大雲取も越えて小口の宿に著いたのであった。実際日本は末世まっせになっても、こういう種類の人間もいるのである。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
世は、寛平年代から、末世まっせなのであり、今日の世のみだれも人間の堕落も、何のふしぎでもありはしない
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
可惜あたら、治国愛民の宝剣も、いかにせん持つ人もなき末世まっせとあってはぜひもない。霊あらば剣もじょせ。猪肉売いのこうりの浪人の腰にあるよりは、むしろ池中に葬って——」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間が人間を喪失して、末世まっせ的な悪と腐敗にみちている時、法官として、民衆にのぞむ至難はいうまでもない。人間が人間を裁く根本からな矛盾がすでにこの重任に困難を約束づけているといえよう。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)