木阿弥もくあみ)” の例文
旧字:木阿彌
そうして私の頭の中は、いつの間にか又、もとの木阿弥もくあみのガンガラガンに立ち帰って行ったのであった。何等の責任も、心配もない……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大将の気紛きまぐれで浮び上ったんだから影が薄い。調子に乗って馬鹿なことをやると、御用済みになっても、もと木阿弥もくあみに戻れないかも知れないぜ
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
驢馬まで売りとばすところだったが、なついて来るいじらしさにそれだけは歯を喰いしばって思い止った。結局元の木阿弥もくあみのまま行商をやり直す外はなかった。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
それから方々へ参ったが銭はあるし、うまいものを食い通したから、もと木阿弥もくあみになった。竜太夫を教えてくれた男は江戸神田黒門町の村田という紙屋の息子だ。
云ったわね、でもやっぱりだめ、自分では本気で、生れ変るつもりだったけれど、あたしに運がないんでしょ、やっぱり元の木阿弥もくあみ、おんなじことになっちゃったのよ
それも厭なりこれも厭なりで、二時間ばかりと云うものは黙坐して腕をんで、沈吟して嘆息して、千思万考、審念熟慮して屈托して見たが、せんずる所はもと木阿弥もくあみ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「かようにいたして、帰るまでにはもとの木阿弥もくあみにしてやろうと思う」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
従兵馬装、依然として貧しき元の木阿弥もくあみだった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして坊主がもとの木阿弥もくあみの托鉢姿に帰って、松原から出て行くと、女房は女房で、坊主と別々にペコペコ三味線を抱えて都の方へ出かける。夜は一緒に寝ているのであった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「その話さ。儲かったが、丁度それぐらい又吐き出してしまったからもと木阿弥もくあみさ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「八年たっても元の木阿弥もくあみ、あんたはちっとも変っちゃいない、いまのお嫁さんがどんな人か知らないけれど、毎日まいにちをさぞうんざりしたやりきれない気持でおくっていることでしょうよ」
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
元の木阿弥もくあみのオンチ然たる悄気しょげ返った態度に帰って、三好と戸塚の後からトボトボと出て来たが、そのまま三人が三人とも黙々として、人通りの多い明るい道を合宿所の方向へ歩き出した。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もと木阿弥もくあみさ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……のみならずその人間があくる朝眼を醒ますと、いつの間にやら元の木阿弥もくあみのケロリン漢に立ち帰って、そんな素敵な記憶の数々を、ミジンも脳髄に残していないというような摩訶まか不思議をあらわす。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)