旅舎やど)” の例文
旧字:旅舍
どこかで馬のいななきが聞えたと思うと、そこの障子に外から燈火ともしびし、旅舎やどの女を先に立てて、一人の客が案内されて来た。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕等は赤彦君のまへにいつはりを言ひ、心に暗愁のわだかまりを持つて柹蔭しいん山房を辞した。旅舎やどに著いて、夕餐ゆふさんを食し、そして一先づ銘々帰家きかすることにめた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
田中という村にて日暮れたれば、ここにただ一軒の旅舎やど島田屋というに宿る。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今金のかどで二人は別れ、松田は本郷から俥に乗り浦和の知人を訪ねようとした処、この車夫たるや余人に非ず敏腕石田刑事だったので、板橋の先の志村の旅舎やどたばかられて他愛無く捕らわれた。
その晩は、酒の興で済んだが、次の日になるとこの同勢が、ゆうべとは打って変って、旅舎やどのすぐ裏の浜辺に出て、天下の大事でも議すように
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうじゃ、わしの旅舎やどはすぐそこの三年坂の下、いつも京都に来ればそこにめてある。われには、用もないから、何処へなと、帰るなら帰るがええ」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「つかれもしたであろう。こよいは旅舎やど退さがるがよいが、明日は連れの者をもれて、登城いたせよ」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わぬしが、上洛と聞いて、あとを追って来たのだ。ところが、旅舎やどがわからない。靫負庁で聞いて、やっと知れ、これから不意に驚かしてやろうと思って、訪ねて来たところだ」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに、数日前から、安土の町々に旅舎やどをとって、待ちかまえていた大小名や、或いは、有資格者の町人、儒家じゅけ、医師、画人、工匠こうしょう、あらゆる階級のものから、大小名の家中も挙げて
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)