をさ)” の例文
贋金つくりが羽ををさめて、其まゝヂツとして居たら、平次も恐らく手の下しやうが無かつたことでせう。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
その歌は不撓の氣力を題とせんといひき。雛等は巣立せり。一隻ははねを近き巖の頂にをさめて、晴れたる空の日を凝矚ぎようしよくすること、其光のあらん限を吸ひ取らんと欲する如くなりき。
満枝はたちまち声ををさめて、物思はしげに差俯さしうつむき、莨盆のふちをばもてあそべるやうに煙管きせるもてきざみを打ちてゐたり。折しも電燈の光のにはかくらむに驚きて顔をあぐれば、又もとの如く一間ひとまあかるうなりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それで不斷の肝癪は全く迹ををさめて、何事をも勘辨するやうになつてゐた。
ぢいさんばあさん (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
鳥の翼は忽ちをさまり、忽ち放たれ、魚の背は浮ぶかと見れば又沈みつ。數分時の後、雙翼靜に水を蔽ひて、鳥は憩ふが如く見えしが、俄にはたゝく勢に、偏翼くだけ折るゝ聲、岸のほとりに聞えぬ。
黒雲空を蔽ひて、海面には暗緑なる大波を起し、潮水倒立して一條の巨柱を成せり。須臾しゆゆにして雲をさまり月清く、海面またた平かになりぬ。されど小舟は見えざりき。彼漁父の子も亦あらずなりぬ。