故々わざわざ)” の例文
「其の替り、今ね、寝ながら本を読んで居て、面白い事があつたから、お話をして上げようと思つて、故々わざわざ遊びに来たんぢやないか。途中が寒かつたよ。」
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
唯今ただいま絆創膏ばんそうこうを差上げます。何しろ皆書生でございますから随分乱暴でございませう。故々わざわざ御招おまねき申しましてはなはだ恐入りました。もう彼地あつちへは御出陣にならんがよろしうございます。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お浦は余が一言も掛けぬに少し不興の様子で「おや道さん四十里も故々わざわざ介抱に来た私には御挨拶も無いのですか、今一緒に歩んで居た美人にでも此の様に余所々々しいのですか」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その手を放して天井を仰ぐと、怪訝けげんな顔をして椅子を放れて、窓の下へ行って、これはまた故々わざわざ閉めてあった窓の戸を一枚上へ押し上げて腰をひねって、戸外おもてとその兀頭を突出すや否や
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
既に秀子から故々わざわざ時介を呼びに遣ったと聞いて居る丈に、厭でも茲を立ち去らねばならぬ、恨み恨み彼の顔を眺むれば彼も余と秀子との間に何か親密な話でも有ったのかと嫉む様に余の顔を見る
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
此の辺から見ると秀子は決して古山お酉では無い、若しお酉ならば益々お浦を避けこそすれ故々わざわざ口を利いて其の帰参に骨を折る筈は、決してない、トサ余は今まで全く斯う思い詰めて居たけれども
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)