持直もちなお)” の例文
負傷者は容易に死なず、医師の説に依れば幾分か持直もちなおした気味だと云う。巡査はよんどころなく手をつかねて、の快癒に向うのを待つうちに、四五日は徒爾いたずらに過ぎた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雨脚は濁らぬが古ぼけた形で一濡れになってあらわれたのが、——道巾は狭い、身近な女二人に擦違おうとして、ぎょッとしたように退すさると立直って提灯を持直もちなおした。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて春見丈助は清水助右衞門を打殺うちころしまして、三千円の金を奪い取りましたゆえ、身代限りに成ろうとする所を持直もちなおしまして、する事為す事皆当って、たちまち人に知られまする程の富豪ものもちになりました。
あどけないさまで笑いながら、持直もちなおしてぱらぱらと男の帯のあたりへ開く。手帳の枚頁ページは、この人の手にあたかも蝶のつばさを重ねたようであったが、鉛筆でいたのは……
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)