抜殻ぬけがら)” の例文
この記憶が消えてしまって、ただ漫然と魂の抜殻ぬけがらのように生きている未来を想像すると、それが苦痛で苦痛で恐ろしくってたまらないのです
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だけど、そんな知識を振翳ふりかざしたって何になるでしょう。そんな学問はただの装飾です。いくらくれないあや単襲ひとえがさねをきらびやかに着込んだって、たましいの無い人間は空蝉うつせみ抜殻ぬけがらです。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
娼「花里さん来たよ、早く側へ往っておあげよ、そんなにシラをきらなくッてもいゝわ、モウ気は部屋へ行ってるんだよ、呆れたもんだねえ、花里さんの抜殻ぬけがらさんや、オイ/\」
その彼らの社会に占め得た地位と、彼らとは背中合せに進んで行く僕の性格が、二重に実行の便宜を奪って、ただけかかったむなしい義理の抜殻ぬけがら
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あたしのようなたましい抜殻ぬけがらはさぞ兄さんには御気に入らないでしょう。しかし私はこれで満足です。これでたくさんです。兄さんについて今まで何の不足を誰にも云った事はないつもりです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妾ゃ本当に腑抜ふぬけなのよ。ことに近頃はたましい抜殻ぬけがらになっちまったんだから
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)