所思おもわく)” の例文
その翌日あの大地震があったのだが、まとめていっためいの縁談が、双方所思おもわくちがいでごたごたしていて、その中へ入る日になると
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
親方様の手前お吉様の所思おもわくをもよくとっくりと考えて見て下され、妾はもはやこれから先どの顔さげてあつかましくお吉様のお眼にかかることのなるものぞ、親方様はお胸の広うて
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
所思おもわくの張合いを抜かされたるが、乙女心の気に入らず、初めよりして構いつけられぬが、なお気に入らず進み寄りて、父様、それは真実ほんとうなの、え、父様、あれさア、身にみて聞いて下さいよう。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
「ろくな酒も飲まねえ癖に文句ばっかり言ってやがる。」と独言ひとりごとを言って、新吉はもとの座へ帰って来た。得意先の所思おもわくを気にする様子が不安そうな目の色に見えた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お作には、ここを切り詰めて、ここをどうしようという所思おもわくもないが、その代りびた一文自分の意志で使おうという気も起らぬ。ここへ来てから新吉の勝手元は少しずつ豊かになって来た。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
師匠も銀子の口車に乗り、やがて大弓場を処分して、藤本へ入って来たのだったが、入れてみると、ちぐはぐの親父と、銀子の所思おもわくどおりに行かず、師匠の立場もかんばしいものではなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その話が決まるまでには、お庄も媒介人なこうどから事をわけていろいろに言って聴かされた。火災保険の重立おもだちの役員であった媒介人なこうどの中村の言うことには、お袋などの所思おもわくとはまた違ったところもあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)