懐中手ふところで)” の例文
ここまでは入って行けないものだが、彼は懐中手ふところでをしてぶらりと入って出て、また入りこんでいる見事さを見せている。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
懐中手ふところでを出すのが大儀だったからだ。いや夫れからもう一つ、うれいに沈んでいたからだ。……で、私は呉れなかった。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
併し頭の禿げた連中は仕方が無いとして若い者は奈何どうかと云ふと、矢張やつぱり駄目だ。血気盛んな奴が懐中手ふところでをして濡手で粟の工風くふうばかりする老人連の真似をしたがる。
青年実業家 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
鏡餠かがみもちなども取り寄せて、今年じゅうの幸福を祈るのに興じ合っている所へ主人あるじの源氏がちょっと顔を見せた。懐中手ふところでをしていた者が急に居ずまいを直したりしてきまりを悪がった。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
旅人沓掛時次郎は三蔵の家に近くたたずみ、懐中手ふところでをしたまま冷笑している。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
何んと志水幹之介ではないか! 懐中手ふところでをして首を垂れ、ここを歩いてはいるけれど、思いは遠い彼方かなたにある——と云ったように歩いて来る。空を見ようともしなかった。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黒塗りの足駄で薄雪を踏み、手は両方とも懐中手ふところで大跨おおまたにノシノシ近寄って来たが
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)