なつ)” の例文
「ああ、だめだ。兄の偉大が、今わかった。兄の愛情が、骨身にこたえる。生き残って、この任を負い通せるわしではない。おなつかしい兄上のもとへ行って」
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一木一草そよ吹く風すら、遠つ御祖みおやの昔思いしのばれて、さだめしわが退屈男も心明るみ、恋しさなつかしさ十倍であろうと思われたのに、一向そんな容子がないのです。
青草に埋れた石塔に腰打掛けて一人泣いたり、学校へ行つても、倫理の講堂でそつと『乱れ髪』を出して読んだりした時代の事や、——すべてなつかしい過去の追想の多くは
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何とやらいふ菜に茄子が十許り、脹切はちきれさうによく出来た玉菜キヤベーヂ五個いつつ六個むつ、それだけではあるけれ共、野良育ちのお定には此上なくなつかしい野菜の香が、仄かに胸を爽かにする。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
すべてなつかしい過去の追想の多くは、皆この中津河畔の美しいまちを舞臺に取つて居る。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)