意趣返いしゅがえ)” の例文
それから、彼女は、ちょっと意趣返いしゅがえしのつもりで、盲人めくらの腕をつねり、通りへ押し出す。そこは、雪をふるい落とした灰色の絨毛わたげの下である。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
人のそでくぐけて来た赤シャツの弟が、先生また喧嘩です、中学の方で、今朝けさ意趣返いしゅがえしをするんで、また師範しはんの奴と決戦を始めたところです
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「その泥棒というのが、ただの物盗ものとりばかりではない、意趣返いしゅがえしに来たものと見えて、内儀さんと若い男をずいぶんこっぴどい目にわせて帰りました」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ハハア、すると何だな、川手、貴様はこの満代が俺のものになったのを、いまだに恨んでいるんだな。その意趣返いしゅがえしにこんな無茶な真似をするんだな」
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
折にふれて病人のき物を落してやって謝礼を貰ったり、意趣返いしゅがえしのついでに二百両ほどくすねたりしていろいろのミイリを編みだしたが、遊んだり顔を売るのに金がかかるから
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
弥生、かなわぬ恋の意趣返いしゅがえしに栄三郎を敵にまわそうというのか? あらず!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おれが市ヶ谷のかみ屋敷から持ち出して故意わざと市ではたいた品物、それも、ほンの意趣返いしゅがえしの悪戯わるさにしたことなので、相良金吾さがらきんごという家来が仲間にやつして入り込んで来たのも万々承知の上で
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうすれば、彼女は、さっそく意趣返いしゅがえしができたつもりになり、彼を放っておくに違いないからだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
すると足音に比例した大きなときの声がおこった。おれは何事が持ち上がったのかと驚ろいて飛び起きた。飛び起きる途端とたんに、ははあさっきの意趣返いしゅがえしに生徒があばれるのだなと気がついた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
笑わしたり、焦らしたり、どぎまぎさしたりする。そうして、面白そうな手柄顔てがらがおを、母に見せれば母への面目は立つ。兄とはじめに見せれば、両人ふたりへの意趣返いしゅがえしになる。——それまでは話すまい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)