悲嘆ひたん)” の例文
そなたはしきりに先刻さっきから現世げんせことおもして、悲嘆ひたんなみだにくれているが、何事なにごとがありてもふたた現世げんせもどることだけはかなわぬのじゃ。
ゴルドンの穏和おんわな顔、モコウの白い歯、次郎の悲嘆ひたんにくるる顔、そしてなつかしい父母の顔、いろいろの顔が走馬燈そうまとうのように明滅めいめつする。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
察する所復讐者ふくしゅうしゃの意図は春琴を苦しめるにとどまらず春琴以上に佐助を悲嘆ひたんせしめようとしたのではないかそれはまた結果において最も春琴を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ショパンの悲嘆ひたんと憤激は想像に余りある。蒲柳ほりゅうの質に宿した獅子ししの魂が「練習曲ハ短調=作品一〇の一二(革命)」となって作品の上に表れたのは、この祖国愛の慟哭どうこくであったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「もし、おん曹子ぞうし——まえにもいったとおり、まだその僧が、勝頼公かいなか、はっきり分っておらぬのに、そうご悲嘆ひたんなされてはこまる。どれ、わしもそろそろ鞍馬くらまの奥へ立ちかえろう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
源四郎はわがつまながら、お政の悲嘆ひたんをどうすることもできなかった。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)