思入おもいいれ)” の例文
そこで、先刻さっき、君と飲倒れたまま遠島申附かった訳だ。——空鉄砲からでっぽう機会きっかけもなしに、五斗兵衛むっくと起きて、思入おもいいれがあったがね。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といひて内侍の方へ思入おもいいれあり「かたり取つたる荷物の内に、うやうやしき高位の絵姿、弥助がつらに」といひかけ「あなたのお顔に生きうつし」と云替へ
トシュミーズをもぬがせ聴診器にて胸から背中を診察する中容易ならぬ病気だという思入おもいいれ
ト厭味文句を並べて始終肝癪の思入おもいいれ。暫らく有ッて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と女中は思入おもいいれたっぷりの取次を、ちっとも先方気が着かずで、つい通りの返事をされたもどかしさに、声でおどして甲走かんばしる。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本行にて竜神の舞は見事にて、棹を捨てると遠寄とおよせになる。これにてちよつと思入おもいいれあり。娘の出にて面をとり、つかつかと舞台の端に出で、見附け柱を抱へて向ひを見込む所よし。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
男の方でも相手あいての熱烈な演じ方に気乗りがしたと見えて、幕になった後まで、なおも飽きずに舞台の上の仕草から思入おもいいれ台詞せりふの言い方を、いろいろ懇切に教えたり直してやったりした。
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
(トじっと思入おもいいれ。行きかける男を引止め、)兄さん。一寸待ってよ。
「誰だい、」と思入おもいいれのある身振みぶりで、源次郎は振返る。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)